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別に特別な感慨や思い出があるわけじゃなかったけども、
私にだって”卒業式なんだから”という想いはあったんだ。
けど、私が居るのは、ドラマでもなく小説でもない現実そのままで、
散る桜の花びらも、降るなごりの雪のひとひらも あるわけがなく、
いつもの掃除してもしてもちょっと薄汚れたカンジの残る体育館の中、
知りたくもない歌や、好みでない、しかもだいぶまえに流行った歌なんかを、
言われるままにうたうふりして、知らないおじさんたちが
とくとくと語るお言葉を口の中でかみ殺してるうちに 
卒業式は終わった。

 ”ああ、涙、出なかったじゃないか。せっかくの卒業式だったのに。”
そんなこと考えながら赤いリボンの巻かれたうろこ模様の筒を
ぽんぽんともてあそんでた。
「ゆー!帰ろーよ。」

チカとやっさんに挟まれるようにして、校庭を横切る。

「【センパイ…ワタシヲワスレナイデクダサイネッ!】」
「あははっ。見た見た、それ。」
「えー、あたし見てなーい。」
「えー、見なかったのぉ。B棟のさ、階段に向かうとこのあのひっこんでるとこで…」
「そうそう。それそれ。【忘れないさ…】」
「キモッ!キモキモキモッ!!」
「うんうん、げぇぇぇ…だったさぁ」
「あー、よーやくアイツラも見なくてすむしー」
「そうそう。やっほーぃ」
筒を振り回しながら3人でゲタゲタふざけてたら、いつの間にか校門。
「あー、これでこことも最後だねぇ。」
ひとりがいって、
「んだねぇ。もう来ないトコだぁねぇ。」
ひとりがうなづいて、
「ああ、そうだねぇ。ほんとにさよならなんだね。」
ひとりがつぶやいた。
柔らかい風がほんの少しのほこりと一緒にそっと通り過ぎた。
                      
                            
呼ばれもしないのに振り返りたくなる気分を抑えて、
門を出ようとしたそのときだった。
「あ・・・・」
私の足が止まってしまった。
友人たちは不思議そうに見る。

「どうしたの?」
そうだよ、なんだろこの気持ち。
どうしたんだろ、あたし。

「あたし、・・・忘れた。かも。」
「えー?ナニを?どこに?」
友人たちの声が高らかに響く。
きっと空にも届いただろう。

「たぶん、教室の机の中。。。。」
「なぁんだ、じゃあ、取っておいでよ。」
「そうだよ。待ってるよ、あたしたち。」
友人たちはこともなげに言い放つと、にこにこしてる。
けど、私の足は止まってる
忘れたような気がしてるだけかもしれないんだ。
だって、何を忘れたかが思い出せないんだもの。

「あーん、はやく行って取ってきなヨォ」
「そーだよ。もう今日しか来ないンだよ、ここ。
もう、来ないンだからね。」
友人たちに突き飛ばされるように、私は学校に戻る。
後ろで カノジョたちが手を振ってるのが振り向かなくても判る。
コロコロ笑って飛び跳ねて、ゲタゲタ転げるように跳ねてるのが。

誰の影も気配もない下駄箱。あったりまえ。
式はとっくに終わってる。
先生たちも帰っちゃったのかなぁ。
あー。どーでもいいやぁ。
開けた下駄箱は空だった。
そうだった、もう上履きは袋の中。
ああ、もういいやと靴下のまんま廊下を渡った。
どうせもう誰もいない。

        つづく
 
 
 
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